記事にするような事でもないことを綴っていきます。

「夜に駆ける」の元ネタ・『タナトスの誘惑』を読んだら予想以上にひどかった件について

自分はド下手くそな文章を読むのがそこそこ好きだ。小説家になろうや、その他サイトに投稿されていて、読んだこともないくせにいきって小説を書いてる人間の気持ち悪い文章を読んで「うわあ……よくこんなの書けるなあ」「ここおかしくない?」「歴史を知らないのになんで歴史要素入れるの?」「なんで軍事わかってないのに下手くそな軍事描写しようとするの?」とイライラしながら読み進めるのは、意外と楽しい。

超底辺級だけでなく時折新人賞の講評を覗いては「へえプロの作家はこういうところを見るのか」「編集者はこういったところをきちんと読んでるんだなあ」と半分勉強がてら半分娯楽で見てたりもする。

 

で、前置きはさておき本題にはいるのだが、2021年現在巷で流行してるYOASOBIの「夜に駆ける」という曲、『タナトスの誘惑』が元ネタという話だからてっきりこれって神話の寓話かなにかと思ったらネット小説らしい。

「ネット小説」……と聞いてぴくんと眉間が動いた。面白かったら面白かったで「いいもの読めた」ですむしゴミだったらゴミでネタにできる……

そう思って一目散にページへ飛んで読んだのだが……

これがまあひどいひどい、よくもまあこんなませた中学生みたいな下手くそな文章を音楽化しようと決断したなあ……と色んな意味で感心する。

ということでこのド下手くそ小説『タナトスの誘惑』の講評を書いていくのが以下続く流れである。

 

 

肝心の『タナトスの誘惑』であるがこちらで読める。無料で読めるものなので引用しながら書くが自分できちんと読みたい人は参照されたし。

 

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8月15日。もうとっくに日は沈んだというのに、辺りには蒸し暑い空気が漂っている。

マンションの階段を駆け上がる僕の体からは、汗が止めどなく噴き出していた。

 この8月15日という数字は「わざとらしさ」というか、終盤の伏線感が漂ってるし実際そうでしたね。

 

「さよなら」

 

たった4文字の彼女からのLINE。

それが何を意味しているのか、僕にはすぐに分かった。

 

御盆の時期にも関わらず職場で仕事をしていた僕は、帰り支度をしたあと急いで自宅のあるマンションに向かった。

そして、マンションの屋上、フェンスの外側に、虚ろな目をした彼女が立っているのを見つけた。




飛び降り自殺を図ろうとする彼女の姿を見たのは、実はこれでもう4回目だ

 もうなんというか、このひとめちゃくちゃ彼女のことが好きだよね。もう4回目だよ4回目。普通はそんだけ自殺するする詐欺されたら「またかよ……」てげんなりしたり「はあまたか……」とため息をつくと思うんですよ。

そこを彼はすんなり彼女の元に駆けつけてる。かなり好きなんだなあって感じですね。

 

世の中には2種類の人間がいるという。

生に対する欲動──「エロス」に支配される人間と、

死に対する欲動──「タナトス」に支配される人間。

 

この世界の人間のほとんどは前者だが、彼女は紛れもなく後者だった。

 

彼女が「タナトス」に支配される人間だということは、彼女と付き合い始める前から知っていた。

それもそのはず、僕たちが出会ったのは、今のようにマンションの屋上で自殺を試みている彼女を、僕が助けたのがきっかけだった。

 唐突な寓話。下手くそすぎてこの部分だけ文章が「浮いている」。

例えばタナトスとエロスを浮かべたきっかけとか、彼女がタナトスに魅せられてるとの考えにいたった経過とか、そういう軟着陸要素がなくて唐突なんですよね。

「昔親父の書斎で見かけたギリシャ神話で印象的な――」とかなんでもいいんですよ。

ここで結構「うっ……」てしてきます。

 

最近同じマンションに引っ越してきたという女の子。つぶらな瞳にぽってりとした唇と、可愛らしい顔立ちをしているが、どこか儚げな表情をしている彼女は、一瞬で僕の心を奪った。きっと一目惚れのようなものだったと思う。

 

その時から彼女とはいろいろな話をするようになり、すぐに仲良くなった。

ブラック会社に勤めながら独りきりで寂しく暮らしていた僕にとって、彼女はまるで天から舞い降りた天使のようだった。

あっさーーーーーーーーーい!!

好きになったの描写が浅い、浅すぎるよ小澤さん。

そもそも自殺しようとしている女の子を見て「あっ好きだ」となるのがもう衝撃的というか、なんかしらのドラマが必要だと思うんですよね。でも文章中ではあっさりと「一目惚れのようなもの」と片付けられてます。あっそうですか……

仮に最初の好きが一目惚れだとしてもそれだけで好きが継続するわけじゃないと思うんですよね。入り口は一目惚れだったけど、話してみたら彼女のこういう一面が知れた、こういうところが好きだ、だから今も好きでいるって色々出てくると思うんですよね。

ところがここでは「天から舞い降りた天使のようだった」と薄っぺらい表現でまとめてます。あっそうですか……

「はぁっ、はぁっ…」

 

マンションの屋上にたどり着く。

 

フェンスの向こうに立つ、彼女の背中を見つけた。

 

「待って…!!」

 

フェンスを飛び越え、彼女の手を取る。

彼女の手は、蒸し暑い空気に反して冷たかった。

 

「はなして」

 

 普通の人間は場面を想像しながら文章を読んでいきますが、その想像に違和感を持つと小説に「アレ?」て感情を抱くんですよ。

マンションの屋上にたどり着いたらびゅーんてフェンスに即いくわけじゃないでしょ?

屋上の扉から、フェンスに近づいてゆく。普通は「おい大丈夫か」とか「なにしてるんだ」とか声かけながら近づいていく場面ですよ。

でもそんな描写はすっ飛ばされていきなり彼女は「離して……!」と口走ってます。

彼は彼で何も声掛けず無言ではいより、彼女は彼女では死にたがっているにもかかわらず彼が近づいてくるのを黙ってじーっと見つめてたんでしょうか。アホですね。

 

「なんで、そうやって、君は…!」

 

「はやく、死にたいの」

 君黙って彼がくるのを待ってたよね???

 

 

「どうして…!」

 

「死神さんが呼んでるから」



彼女には、「死神」が見える。「タナトス」に支配される人間に稀に見られる症状なのだという。

そして「死神」は、「タナトス」に支配されている人間にしか見ることができない。

 

 この辺も作者が「タナトスという僕が知ってる寓話使いたい症候群」でめっちゃ浮いてますね。題材として取り上げるのは全然いいけど、そこの考えに至るまで自然な流れでいてほしいよね。

 

死神は、それを見る者にとって1番魅力的に感じる姿をしているらしい。いわば、理想の人の姿をしているのだ。

 

彼女は死神を見つめている時(僕には虚空を見つめているようにしか見えないが)、まるで恋をしている女の子のような表情をした。まるでそれに惚れているような。

 

僕は彼女のその表情が嫌いだった。



「死神なんて見てないで、僕のことを見て」

 

「嫌…!」

 これネットのワナビスレで100万回言われてる言葉でしょうけど「…(3点リーダー)」は偶数個つけるのがマナーです。

別に「…」が1個だからって内容に変化はないんですが、内容があれで最低限の作法も知らないと「あっ……………………」と読み手に察される可能性があります。

これは8個なのできちんと偶数個です。

 

彼女が僕の手を振り払おうとしたので、思わず力強く握ってしまった。



「痛い…!」



「!ごめん…」

 

 

 「!」を先頭に持ってくるのはやめましょう。そして「!」のあとは必ずスペース入れましょう。お前本当にワナビか?

 

でも、君が悪いんじゃないか。僕の手を振り払おうとするから。僕のことを見てくれないから。

 

「死神さんはこんなことしないよ…!」



僕の心にどす黒いものが押し寄せてくる。



「なんで…」



なんで、こんなにも僕は君のことを愛しているのに、君は僕だけを見てはくれないのだろう。

 

死神に嫉妬をするなんて、馬鹿げていると心のどこかでは思っていたが、もうそんなことはどうでもよかった。

 「どす黒いもの」ってなにさ? この作者、抽象的なことを書いては具体的な描写を避ける傾向にあります。

「死神に嫉妬」とありますが読んでて唐突な印象を拭いきれません。

下手くそな文章って感情の動線がないよね、どうしてこういう行動に至ったこういう感情になったって。

その点センター試験に出るような小説って必ず書いてあるから「プロなんだなあ」て感じです。

 

女の子が「死神さんが呼んでるから」という頭沸いてる内容で死にたがって、それで彼女は僕を見てくれないから急に「死神に嫉妬して」「どす黒いものが沸いてきた」???

登場人物全員幼稚園児かよおい。

 

「もう嫌なの」



僕も嫌だよ。



「もう疲れたのよ」



僕も疲れたよ。



「はやく死にたいの」



「僕も死にたいよ!!」

 ここで「気持ち悪いなあ」と思いました。いやうそです、前々から思ってました。

冒頭でも触れた通りこの彼ってすっごい彼女のこと大好きなんでしょ?

そもそも自殺しようとしていたところを一目惚れしてたし、この説得もそろそろ4回目なわけです。もう彼女がメンヘラなのは織り込み済みだし、そもそも説得しよう! てことでため息一つつかず屋上まできたわけです。

でもいきなりここでは「死にたい」とあっさり心が折れてます。

別に折れたことをとやかく言ってるわけじゃなくて、感情の変化があるならそれ相応の描写をしてくれってことです。こいつはいきなり死にたがってますが一体何があったんでしょう。俺がもう嫌だよ。

 

ああ、そうか。

君が自殺を図ろうとする度に僕のことを呼んだのは、僕に助けてもらいたかったからじゃない。



君は、僕を連れて行きたかったんだ。




僕にとっての「死神さん」は、彼女だった。




涼しい風が吹き抜ける。いつの間にか蒸し暑さなど感じなくなっていた。



「じゃあ、行きましょうか」



「ああ、行こうか」




手を繋いだ君と僕。



この世界が僕らにもたらす焦燥から逃れるように



夜空に向かって駆け出した。

 結論ありきだなおい。

タナトスと、この最後の描写を書きたいがために書いたはいいけど、間の要素がスカスカで空洞状態になってますね。

 

そもそも彼女が謎過ぎますね。彼女が死神であるという神秘性とかそういう話ではなく。

最初から自殺したがってたのに、最後では彼を連れていたがってる。なんで彼と付き合っていたかも、本当に好きだったかも、なんで連れて行きたかったかも、何もかも謎です。

「死神しか見ない」彼女と、彼は普段どんな会話してたんでしょうか? そもそも仲が良かったかどうかも疑問です。

 

なんでもかんでも明かせばいいって話じゃないにしても、このままだとただのメンヘラ錯乱女か作者の都合のいい舞台装置のどちらかにしか解釈できないので、ちょっと不足すぎますね。

 

 

というわけで『タナトスの誘惑』でした。めちゃくちゃひどかったけど、それでもなろうにはこれよりひどいゴミが沢山いるので、その中ではよくできているほうだと思いました。

何度でも思うのはこの手の小説は感情の動線の描き方がド下手くそなやつばっかりでげんなりします。漫画にはない小説の利点ってそういう感情の揺れ動きを書きやすいことなのに……

 

というころでただのオナニーでしたがこのへんで。またまたじかい(?)。